「もしドラ」と「成果主義給与」制度の関係

 今や日本企業でも「成果主義」給与制度を導入している企業は多いが、その際、「成果」を測る手段として導入されるのが所謂「目標管理制度」、Management by Objectives(MBO)である。
 導入の目的としては、年度初めに設定した目標の達成度を給与の増減に結びつけることによって、業績向上へのインセンティブにしようという訳であるが、目標設定の仕方に体系性はなく、通常、日本企業で実施している目標管理制度では社長や役員の目標は示されない。

 この話をしたら、欧米企業の人事部長が驚いてしまった。欧米企業の常識からすれば、目標というのはまず最初に社長(CEO)が自ら明らかにするものであって、それを受けて、以下、役員クラス、部長、課長……と展開されるものである。目標管理制度の生みの親であるドラッカーの言葉で言えば、「事業を推進していくためには、個々の業務の目標が事業全体の目標と合致するとこが必要」なのであって、「トップ・マネジメントから現場の職長に至るまで、個人の目標は必ず企業の目標に沿って展開されるものでなければならない」のである。

 一方、「成果主義」給与制度を導入している日本企業の目標管理制度というのは、せいぜい「上司と部下が話し合って目標を決める」といった「手続き的な」定義がある程度で、目標の体系性の話は制度の内容としてまず出てこないのが実情である。「目標の体系性」が重視されない大本は、社長以下トップ・マネジメントの年度目標が明示的に示されないことにある。管理職や社員の給与決定に目標の達成度を使うのであれば、社長や役員の報酬もまた年度目標の達成度で決定されるのでなければ意味がない。そうでなければ、それは「制度」とは呼べない代物である。

 あるいは、「そんなことは分かっている」のかもしれない。分かっていてできないのは、日本企業で目標管理制度を導入することに無理があるからであろう。欧米企業の給与は職務で決まるのであって、目標の達成度は人事考課(能力考課)における一項目を構成し、昇進・昇格などの重要な判断材料ではあるが、報酬面ではせいぜいその年のボーナスに結びつくだけである。

 MBOはもともとマネジメント、業務遂行の手段なのであって、それ故にこそトップ自ら目標を示して、部下に徹底、理解させる必要がある。その意味では、目標管理はそのまま業績管理なのである。日本企業で社員の給与決定の手段として導入される目標管理制度においては、「トップ・マネジメントの年度目標は示されず、中間管理職がそれぞれ目標を立てる」という話を聞いたら、ドラッカーも天国で腰を抜かすに違いない。

「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」(「もしドラ」)を読んだ日本企業の関係者は多いが、ドラッカーの『マネジメント』そのものを読んだ日本のビジネスマンは、残念ながら少ないようである。

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