解雇(終身雇用のイナーシャ)

 解雇というのは重大な経営判断を伴う問題であるが、その受け止め方というのは、日本と海外、米国とで大きく違う。

ひとつ分かり易い例を出そう。日本企業の海外子会社で、社長専用車の運転手を首にしたときの後日談である。ある日、その社長が街を歩いていると、向こうからその首にした元運転手がやって来るのに気がついた。日本人社長は何とか遭遇を避けようと試みたが果たせず、往来でまともに顔を合わせることになってしまった。殴られるんじゃないかとさえ考えた日本人社長に対して、元運転手はにこやかに握手を求め、挨拶をして悠然と歩き去ったという。

これに似た話は他にもある。海外子会社の現地人幹部社員を本社に集めて行われるマネジメント研修で、日本企業の人事研修でよく使われる「部下に問題社員がいた場合に上司としてどう対処したらよいか」という事例を使ってみたのである。
 日本企業における正解は、「不満が根底にあるなら耳を傾けるなど問題あるビヘイビアの背景を探りつつ、仕事の上で支障が生じないようにバックアップ体制を採る」など、さまざま対処策を考えるというものである。
だが、この研修を海外子会社の現地人幹部社員相手にやると、アメリカ人社員などから「そういう社員は直ぐに首にすべきではないか」という指摘をよく受けるという。

 日本企業の社内研修は終身雇用や入社年次別人事管理などを前提にしているため、通常、こうした反論がありうることは前提になっていない。部下の採用、解雇に関する権限と責任がラインマネージャーにあるという仕組みの海外においてはこうした処方箋もまた当然、選択肢に含まれていなければならないが、残念ながらそこまで考えた研修プログラムはなかなか準備されていないのが実情である。

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