「ジョブ型雇用」って何(?)それって新しいもの(?)

2022年01月18日

カテゴリ:

 「ジョブ型雇用」が話題になっている。コロナ禍で何やら新しい雇用形態でも出現したかと言えば、そういうことではない。欧米企業で広く採用されている「職務給制度」を導入する動きが日本企業の一部でみられるという話である。大きく言えば、日本企業のこの動きは三度目のブームと言える。

 一度目は、1990年代後半から2000年代初頭であった。経済・経営のグローバリゼーションに伴って世界に展開した各国子会社の事業規模が格段と大きくなり、親会社・親事業部の幹部と一体になって動ける人材が必要となった事態に対応したものである。日本企業が人事制度のグローバル標準を求めて外資系人事コンサルタントの日本法人各社に殺到した時期でもあり、多くのケースでは管理職を対象に「役割給」の形で導入が図られた。 

 二度目はそれから10年ほどたった2010年前後で、人事制度改革の遅れていた企業や2000年前後の大改革の見直しに入った先行組などで、対象を一般社員にも広げる形で見直しが図られるケースが多くみられ、「ジョブ型雇用」の用語が広まった。

 そして最近、また更に遅れていた企業や先行組の人事制度見直しの中で、「職務給制度」(「ジョブ型雇用」)の見直し・再導入の動きが出てきているように思われる。

 「職務給制度」とは、一言で言えば「会社は一つ一つのジョブ(『職務』)の集合体である」という考え方の上に成り立っている。そこでは仕事の内容も権限も個々のジョブ毎に定義されており、職務(「ジョブ」)の価値=給与は基本的には市場(相場)で決まる。

 これに対して、日本企業の人事制度においては、給与は社員一人一人に対して決まっている(「属人給」)一方で、個々人の仕事は予め決められている訳ではない。決まっているのは、その部課が全体として果たすべき職務であって(多くの場合「職務分掌規程」が決められている)、社員一人一人の職務については、部課長がその時に部下として配属されている社員に割り振る仕組みである。与えられた手持ちの部下をどう使うは管理職の腕の見せ所でもあり、部下の側は一つ一つの所属部課を越えてローテーションしていくことで幅広い仕事能力を身に付けて行く。

 日本企業の給与制度改革が遅々として進まないのは、「能力主義」(実力で抜擢?)や「成果主義」(成果給による業績向上)といった言葉に目を奪われ過ぎたからではないのか(?)職務給制度(「ジョブ型雇用」)は、教育制度、とりわけ「専門性と報酬」、個人を重視する社会制度と不可分に結びついており、こうした価値観と対峙することなく給与制度改革を繰り返しても、お決まりの「年功的運用に陥る」罠から逃れられないのではないだろうか(?)

脱炭素社会がもたらすもの、それはロケット(?)

2021年12月10日

カテゴリ:

 脱炭素社会のカギを握る技術のひとつがEV(電気自動車)であることは言うまでもない。実際、「EVシフト」の動きは世界各国・地域でみられる。EUは規制を強化して2030年までにEV車を1億3000万台に持って行こうとしているし、中国では1台50万円の価格を実現してEVの普及を目指している。

 EVの弱点はその航続距離にあり、現在主流となっているリチウム電池の改良が進められているが、既に次世代の電池としてより小型で安全な「全固体電池」の開発が進められている(日本経済新聞、2021年12月3日など)。

 EVの普及には(電力の)電源構成の問題をはじめ大きな問題が関係してくる。地球温暖化現象への対応策として目指されるようになった「脱炭素社会」だが、解決への途は多様であり、単純ではない。自動車ひとつとってもEVシフトの他にも水素エンジンもあれば、燃料電池車を目指す動きもある。
 
 他方で、雇用の問題も無視できない。自動車産業はその部品点数の多さから関連企業が多く雇用数が多いのだが、構造が簡単なEVが普及するようになれば自動車産業を抱えた国では関連産業を含めて何十万人分というレベルの雇用が失われると考えられている。

 日本では、「2040年にガソリン車全廃」という方針を打ち出したホンダ(本田技研工業)がロケット事業に参入する。既に、(小型)ジェット機を事業化しており、技術開発においては定評のある同社だが、思い切った事業展開であると言えよう。
 EV以外の選択肢が出現すれば、そこから関連産業も含めて新しい雇用も生まれるかも知れない。

 第二次世界大戦後、二輪車事業から発展してきたホンダだが、「モビリティ」を追求する企業と自己を位置づけることによって遂にロケット事業にまで参入することとなったのは実に興味深い話である。

デジタル社会の「除け者」=「ハンコ(判子)」技術!日本の半導体メーカーを救う(?)

2021年11月6日

カテゴリ:

 世界経済の足かせとなっている半導体不足。自動車産業も4~9月期は販売が落ち込み、その原因は生産量の落ち込みにあるが、そもそも生産量の落ち込み(売れるほど作れない)自体が自動車部品の半導体の調達不足から生じている。

 半導体の調達不足は多くの産業にとって問題になっているが、半導体生産では負け組に属するようになってしまっている日本の半導体製造企業の中から、新しい製造技術が生まれようとしている。それもデジタル社会から駆逐されようとしている「ハンコ」(判子)の発想を使うと言う。

 現在の技術では、半導体の製造はシリコンウェハーの上からマスク(回路図)を露光して焼き付けることで行なわれ、マスクを何度も転写する必要があるためコストが掛かり、多額の設備投資が必要になる。エッチング技術の応用である。しかし、「ハンコ」式製造法では、3次元のパターンを形成したマスクをシリコンウェハー上の感光材樹脂に「押し付け」ながら一度の露光で転写することで製造が可能となる。

 日本ではデジタル社会の構築が遅れているということで、9月にはデジタル庁も発足した。行政改革担当大臣まで置いてハンコ社会を改造しようとしてきた中での救世主としての「ハンコ」式製造法の登場。意外な展開である。

 技術というのは、人の常識や想像を超えた要素を持っている。現在主流となっている露光法が印刷分野における要素技術としてのエッチングの技術から半導体の製品技術となったように、「ハンコ」の「パターンを液体に押し付ける」技術が生かされる。

 行政手続きなどの分野では用済みとされることになった「ハンコ」だが、その要素技術が半導体の製造技術として生かされ、しかも日本の半導体メーカーの劣勢を挽回することに役立つかもしれないというのは、実に興味深いことである。

ノーベル賞の受賞者の本音(?)大学教授の仕事って何(?)

2021年10月16日

カテゴリ:

今年のノーベル賞の発表が続き、物理学賞の受賞者に日本人の真鍋氏が含まれていた。氏の研究成果や生い立ちから現在に至るエピソードは大変興味深いものであるし、今回の受賞理由は気候変動に関する最近の世の中の動きに大きく関連したものであった。

気候学に数理モデルを導入したことの意義やそれが今日の地球温暖化現象の解明に有用である点については議論を専門家に任せるのが筋であろう。

ここで注目したいのは、真鍋氏が何故「米国籍」を取得したか、その理由である。マスコミとのインタビューで、真鍋氏は「日本(社会)は『同調圧力』が強いので、自分には合わない」趣旨の発言をしている。若い時から米国で暮らしてきたこともあるだろうが、成功して一度日本に戻っていた時期もあるので、何故米国なのか気になるところである。

ひとつは研究環境であったかもしれない。若くても優秀な学者なら基礎研究であっても日本での何十倍もの予算が付く(氏の場合は高価なものだったコンピューターが自由に使えた)など持てる才能を発揮できるように感じたとも述べている。

更に視点を変えれば、そもそも大学教授の仕事の中身の問題が関係しているのではないだろうか。日本では大学教授の仕事と言えば、まず、教えること(授業・研究指導)と研究することが思い浮かべられよう。大学教授の仕事に組織運営や社会貢献まで含まれることは意外と知られていない。

大学入試に係わる仕事も存在する。出題はまだしも採点、果ては試験監督といった作業も大学教授・教員の仕事の範囲内である。よくテレビのニュースで「大学入学共通テスト」の実施会場が放映されるが、あの会場で問題を受験生に配布したりしているのは事務員ではない。大学教授・教員が動員されているのである。日本の大学教授はなかなか研究に専念できないのが実情であろう。

豊富な研究資金と自由な研究環境、それが真鍋氏に米国籍を選ばせたというのは考え過ぎだろうか(?)
 
 

ディズニーがアニメ制作を日本企業に依頼!!!

2021年09月18日

カテゴリ:

 経済紙が報じるところでは、エンターテインメント業界の頂点に立つ企業でのある米国ディズニー社が日本のアニメ制作企業に依頼した映画「スターウォーズ」の動画が22日に公開されるという(2021年9月14日朝刊)。

 日本が世界に誇る三大ソフトと言えばアニメ、ゲーム、カラオケだが、いずれも戦後のことでテレビ時代以後のものである。アニメはそれ以前から漫画本や漫画映画としての歴史がある。

 ところで、アニメの大家、ウォルト・ディズニーが戦意高揚アニメの制作に当たっていたのを「その時カメラは回っていた」(NHK総合テレビ、2021年8月18日放送)で紹介していた。日本やドイツは実写ものが多いのに対して、さすが米国の方は漫画(アニメ)映画が主だったようだ。ポパイの力の見せどころである。

 ディズニー自身が第一世界大戦の義勇兵に応募した事実があるそうだから、戦意高揚アニメの制作を頼まれれば、積極的に取り組んだのかもしれない。中でも、ヒットラーを模した人物を揶揄した大作は興味深い。戦意高揚や米国側の奮闘に繋がったとしたらさすがである。

 戦後も戦意高揚ものに代わって、冷戦期初期においても原水爆実験の安全性をアピールする目的の宣伝映画が作られたようだ。ネバダ州の核実験場の安全性を信じた兵士や住民も少なからずいるという。

 その実写ものより優れたアニメ制作で成功していたディズニー社が、動画配信で先行するネットフリックス社に対抗するためとは言え、自社の実写もの(+CG)のヒット作「スター・ウォ―ズ」の動画制作を日本のアニメ制作会社に依頼したというのは、何とも皮肉な話である。競争優位をめぐる戦いは止まるところを知らないようだ。

過去の記事を見る