宇多田ヒカルと大学の卒業

 電車の中に大学の「オープン・キャンパス」の広告が目立つようになった。明日から高校は夏休み。定員割れに悩む私立大学や入試倍率の低い国立大学など、つまり入学志望者の少ない大学が自らのキャンパスを、夏休みの一日、高校生に開放してキャンパスに来てもらい、施設見学や模擬授業、研究室訪問などを体験してみて、是非志望してもらおうというのである。

  背景にあるのは、勿論、18歳人口の減少であり、大学進学率のアップである。日本の大学進学率は1960年代の20%台から徐々に上昇を続け、2000年代には50%を超えた。「わが子を是が非でも大学に入れたい」という親の強い望みの結果でもあるかもしれない。しかし、国際的にみれば70%を超える米国やお隣の韓国の70%強より低い水準にある。

  但し、これは進学率であって、卒業率ではない。よく言われるように、欧米の大学は(大学院ではない)、基本的に来る者拒まずで入学させ、厳しく勉学を積ませる。従って、卒業までこぎつけるのはなかなか大変である。1年生で入学した当初からガンガン勉強させるので、勉強嫌いな者は「あ、これは自分に向かないな」と感じて退学していくので、「入るは易く、出るは難しい」ことになる。

 「入るは難しく、出るは易しい」日本の大学および大学生活が当たり前だと思い込んでいる日本では、例えば「宇多田ヒカルが名門コロンビア大学に進学した」というニュースに接して、コロンビア大が如何に有力大学かどうかについて盛んに報道していた。しかし、残念ながら、その後宇多田ヒカルがコロンビア大を卒業したという報道は記憶にない。

 「高校全入」で通学カバンの中に何も入っていない高校生が増え、「大学進学率の上昇」で外食産業・サービス産業のバイト労働力が確保される結果、日本人の学力は落ち、大学では高校教育の「補習」が定着してきている。これで生産性が伸びたら不思議である。大学進学率が上がるのはいい。ただ、その大半が「勉強好き」とはとても考えられないので、勉強好きでないものは早目に退学して「手に職を付け」、自分に合った職業を見つけることが本人の為にも望ましい。

  勉強は、後になって本当にやりたくなってから取り組んでも決して遅いということはない。むしろ、やりたくてやる勉強の方が吸収度が高いし、効率もいいのである。実は、大卒と同等とみなして大学院に入学し、MBAの資格を取る途も存在する。

  オープン・キャンパスで見て来る必要があるのは、大学の設備や教育環境ではなく、実は、本当に勉強したいのか、もっと学びたいのかという自分自身の気持ちであろう。

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