終身雇用、藩、そして新卒一斉採用

 「一旦退職した社員を再び正社員として入社させる」企業が日本企業の中に出てきた。勿論、銀行業界などで広くみられるように、「一旦退職した社員をパートとして再雇用する」事例は以前からあった。また、昨今の女性活躍推進に関連して、総合職から一般職への転換制度等は存在してきた。

「一旦退職した社員を再び正社員として入社させる」日本企業が全くなかった訳でもない。IT産業など、人の流動化の激しい新興企業の中では見られた現象であるし、所謂大企業の中にも10年ほど前から「一旦退職した社員の再入社」を認める企業も出てきてはいた。但し、それは「以前所属していた所属先が了承すること」という条件付きで、事実上、機能してこなかったと言える。

御手洗キヤノン会長・元経団連会長はかつてから日本企業システムの特徴、特に強みとして、「日本企業は『藩』のような存在である」旨の主張を展開している。企業への帰属意識、忠誠心、生涯丸抱えの終身雇用制などを指してのことである。日本企業が終身雇用を中心とした「藩」であるならば、脱藩=退社・転職は死罪に相当する重罪であり、元の企業へのカムバックなど考えられないことであったのである。

目を欧米に転ずれば、一旦退職した社員が再び正社員としてカムバックすることはそんなに珍しいことではない。少なくとも、「一旦、辞めた奴」という冷たい目で見られることは考えられない。「どうした?戻って来たのか?また一緒に働けるな!」程度の意識であろう。会社が彼/彼女を必要とした以上、企業の人材ストックに加えるのは当然だからである。

 今年もまた、新卒の一斉採用へ向けた短期決戦が始まった。人材の長期評価、終身雇用を根幹とする人事システムを特徴とするこの国の企業が、入口=port of entry で超短期決戦=短期人材評価に依存しているのは異常という他はない。

カテゴリー: 日米企業(比較), 異文化マネジメント パーマリンク

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です