半導体のテキサス・インスツルメンツがスマートフォン用の高性能半導体から撤退すると発表した(日本経済新聞、2012年12月13日)。企業経営の10年先を見据え、電子機器に欠かせない「アナログ半導体」を武器に、重さや傾きの計測などの広い用途で半導体の世界シェア上位を狙うという。デジタル化の「逆張り戦略」である。
IT社会、最近はICTとさえ言われる「デジタル時代」。アナログ・テレビの放送も無くなり、世の中こぞって「デジタル化」の今日この頃。アナログ半導体から撤退するというのなら話は分かるが、アナログ半導体に特化するというのだから興味を引かれる。
話は変わるが、パワーポイントが使われ出してから15年ぐらいであろうか(?)企業内の会議や顧客へのプレゼンテーションなど、パワーポイントを使うのは常識化しており、最近では学会での発表は勿論、大学での講義でも広く使われるようになってきている。予めパソコンで作成した資料やグラフ、表などを見やすく表示できて、特に若手研究者・教員からは重宝がられている。
他方、大学の講義室にはしばしば「書画カメラ」というものが常備されている。一昔前のオーバー・ヘッド・プロジェクター(OHP)の進化したものと考えれば分かり易いが、オーバー・ヘッド・プロジェクター(OHP)は資料を予め透明の専用シートにゼロックスコピーしておき、下から光を当てて投影するという代物だったから、パワーポイントの出現でいっぺんに使われなくなってしまった。
「書画カメラ」はオーバー・ヘッド・プロジェクター(OHP)と違って、基本的にはカメラであり、資料を映す形でスクリーンへ投影する。つまり、原始資料そのままを写真に撮ってプロジェクターに繋ぐのである。従って、資料をパソコンに取り込んだりする手間は必要はなく、新聞記事であろうが書籍の1ページであろうが、そのままの姿で提示できるのである。(そのため大学ではしばしば「教材提示装置」と呼ばれる。)
企業人も漸くこの便利さに気が付いたのか、最近エルモやエプソンなどのメーカーが小型の洒落たデザインの新製品を投入している。とにかく原資料そのものをスクリーンに直接映写できる(準備が要らない)のが速くて便利だし、議論の進行次第では予め(パワーポイントに)仕込んでおいた資料や表などから脱線してほかの資料を提示できる。ホワイトボードに書かなくても、手元にA4の白紙を置いて、その上にボールペンで手書きしたものがスクリーンにそのまま現れるのである。
世の中の技術がデジタル化に向かっているのは事実である。企業はそれを争い、行政はそれを強制さえした(例えばデジタル放送の開始と「アナログ放送の廃止」)。しかし、「アナログ技術」にはアナログ技術のよさ、便利さがあるのも事実であって、デジタル技術に取って代られて無くなっていく技術という理解では対応を間違う恐れがあることに注意した方がいい。